修正震源域による東海地震の震度予測
2001.9 岐阜大学工学部土木工学科 地震工学研究室
【1.はじめに】
6月中旬,中央防災会議「東海地震に関する専門委員会」1)は東海地震の想定震源域を見直し,修正した震源域を発表しました.新しい震源域は従来の震源に距離西側に位置しており,東海地方に近くなりました.
本文では,地震動予測法を用いて新旧の想定断層による震度分布を計算し,比較を行いました.
【2.新しい断層モデル】
中央防災会議「東海地震に関する専門委員会」1)は,20数年前に発表された想定震源域を見直し,修正した震源域を発表しました.下図にあるように,新しい震源域は"なすび型"をしており,従来の想定断層より約数10km西側で,断層面積はやや広くなっています.図中,斜線で示した部分は震度分布を予測した時の断層モデルです.

中央防災会議「東海地震に関する専門委員会」が設定した東海地震の震源域
【3.地震動予測手法について】
想定震源域が見直されたことで予想される震度分布にどの程度の違いがあるのか,研究室で開発された地震動予測法2)により計算しました.
ここで,地震動予測法について簡単に説明します.
断層の大きさ,着目地点と断層位置や断層の破壊方向などにより地震動は変化します.
任意地点の地震動を算定する場合,このような条件を考慮するために断層をいくつかの小断層に分割し,各小断層から発生する地震動が着目地点に到達する時間差を考慮して合成します.
下図に新たに想定された東海地震の断層(斜線部分)と,名古屋市役所を着目地点としたシミュレーションの概念図を示します.
左側の図は,A〜Eの小断層からの地震動を名古屋市役所で算出したもので,全ての小断層からの地震動を合成した結果も示しています.
このように各小断層からの地震動が着目地点へ時間差を伴って伝播することを考慮して地震動を合成すると,全体として50秒程度の大きな揺れが続く地震動が算定されます.

地震動予測手法の概念図(想定東海地震による名古屋市役所地点における地震動予測の例)
【4.震度予測結果1:断層が陸側→海側へ向かって破壊した場合】
先程の地震動予測手法により,新旧の想定断層による震度分布を計算しました.計算した地震動は工学的基盤と呼ばれる比較的堅固な地盤での地震動です.地震動は工学的基盤の上に堆積している地盤条件の影響を大きく受けるのですが,今回は地点ごとの地盤条件を考慮した地震動は計算していません.以下に示す計算結果では,平均的な地盤条件による地震動の増幅を考慮して,工学的基盤で計算した震度に0.5加えた値を地表の震度として表しています.3)
下図は断層が陸側→海側へ向かって破壊した場合の震度分布推定結果です.新旧のモデルによる推定結果を比較すると,震度X強の範囲が愛知県の広い地域と三重県西部まで広がり,震度X弱の範囲は岐阜県南部,奈良県,和歌山県のほぼ全域,滋賀県南西部まで広がることがわかります.

次に,断層モデルが新しくなったことで,各地の予想される震度はどのように変わるか,従来の断層モデルと新しい断層モデルの震度の違いを見てみると,断層西側の震度が大きくなる傾向がよくわかります.

【5.震度予測結果2:断層が海側→陸側へ向かって破壊した場合】
今度は,震度がより大きくなると予想される,断層が海側→陸側へ向かって破壊した場合の震度分布推定結果を見て見ます.先程と同様に,新旧モデルの推定結果を下図に示します.陸側→海側へ破壊した場合の結果と比べ岐阜県全域において新旧モデル共に震度X弱以上となることがわかり,東海地方全体で見ても震度X弱以上の範囲が大きく広がっていることがわかります.さらに,愛知県では東部の一部地域を除いて震度X強以上,西部ではY弱となるため,断層が陸側から破壊した場合と比べ,海側から破壊した場合には大きな被害となることが予想されます.

先程と同様に新旧断層モデルの違いを見てみると,愛知県の東部で震度が0.3〜0.4程度大きくなることがわかります.

【6.おわりに】
今回発表されたい新しい想定断層が従来より西側になり,断層面積が大きくなったことで,予想される震度が東海地方全域で大きくなる傾向があることがわかりました.
新旧の想定断層による震度予測結果を以下にまとめます.
- 断層が陸側→海側へ破壊した場合の予測結果では,旧モデルと比較して震度X強の範囲は愛知県西部や三重県西部に広がり,震度X弱は東海地方全域や近畿地方西部まで広がることがわかった.
- 断層が海側→陸側へ破壊した場合の予測結果では,新旧の断層モデル共に東海地方全域で震度X弱以上となることがわかり,特に愛知県では,ほとんどの地域で震度X強,場所によってはY弱となることがわかった.
- 断層の破壊方向による予想震度分布を比較すると,東海地方では断層が陸側→海側へ破壊する場合よりも海側→陸側へ断層が破壊した場合のほうが震度が大きくなることがわかった.
【参考文献】
- 中央防災会議,東海地震に関する専門調査会(第6回),http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/tokai/6/index.html
- M.Sugito,Y.Furumoto,T.Sugiyama:Strong Motion Prediction on Rock Surface by Superposed Evolutionary Spectra,12WCEE,2000.2 in Auckland,New Zealand(CD-ROM)
- 古本吉倫,杉戸真太,能島暢呂,鈴木貴詞:地盤の非線形性を考慮した変換係数での気象庁計測震度の簡易推定法,第34回地盤工学研究発表会平成11年発表講演集,pp.1949-1950,1999.7
本文で紹介した修正震源域による東海地震の震度予測結果は,新聞やテレビニュースでも紹介されています.