想定地震による被災道路網の性能評価

Evaluation of Post-disaster Performance of Highway Transportation Systems
Based on Scenario Earthquakes

能島暢呂・杉戸真太(岐阜大・工) 福岡淳也(日本技術開発(株))
Nobuoto NOJIMA and Masata SUGITO
Department of Civil Engineering, Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu 501-1193
e-mail: nojima@cive.gifu-u.ac.jp, sugito@cive.gifu-u.ac.jp
Junya FUKUOKA, Japan Engineering Consultants Co. Ltd., 5-33-11 Honmachi, Nakano-ku, Tokyo 164-8601
e-mail: fukuokajy@jecc.co.jp


A comprehensive method is proposed for evaluation of physical and functional performance of highway transportation systems on the basis of scenario earthquakes. First, the earthquake motion prediction model EMPR is used to obtain spatial distribution of ground motion intensity due to selected scenario earthquakes. The intensity map is superimposed upon a digital map of transportation network. By combining these two with fragility relations on GIS, a set of damage probability of network components is obtained. Next, a three-step algorithm to evaluate the post-earthquake functional performance is employed. The algorithm includes procedures (a) to generate a number of damage patterns using Monte Carlo simulation method, (b) to load the network with O-D trips using a modified incremental assignment method, and (c) to assess the network performance related to links, cross-sections, centroids, O-D pairs, and the total network. The results of performance assessment provide average values, distributions and correlation of aggregate and non-aggregate attributes which describe the traffic behavior under seismic risks.
Keywords: Scenario Earthquake, Highway Transportation Network, Fragility Assessment,
Modified Incremental Assignment Method, Performance Evaluation

1. はじめに

 1995年兵庫県南部地震を契機に,内陸活断層や海溝型巨大地震を震源とするような低頻度巨大災害に 対する危機感が高まり,自治体や研究機関などで,地震被害想定に関する調査研究が盛んに行われて きた.被害想定においては,家屋被害,出火危険度,人的被害,供給系ライフライン被害,道路被害 などが推定対象項目に含まれている.このうち供給系ライフラインの機能は,供給点から需要家に至 る物理的なフローより果たされることから,被害予測モデルの構築が比較的容易であるため,機能支 障を被る世帯数やその地域的分布といった機能的被害予測まで行われることが多い.

 一方,道路交通の地震災害時の挙動については,OD交通需要の質的・量的変化や交通手段・経路の変 化など不確定要因が多く,未解明の現象が残されている.このため,被害想定においては橋梁などの 構造的被害予測が個別的に行われるに過ぎず,道路ネットワークが果たす交通機能が評価対象とされ ることはほとんどないのが現状である.逆に,地震後の交通機能評価に重点を置いた研究では,実際 に発生した特定の被害パターンを対象とした事後評価や,道路施設被害を与件とした事前評価が行わ れるため,将来の地震による施設被害の不確定性が考慮されないことが多い.地震時の道路網機能の 喪失は,社会経済的インパクトが強く,緊急対応や復旧・復興活動を大きく阻害する.従って,想定 地震の設定から,地震動強度分布の予測,道路施設被害の推定,道路網機能の評価に至る流れ1) を ,統一的なシナリオで取り扱うことのできる地震時性能評価手法を確立し,上記のようにバランスを 欠いた状況を打破することが強く望まれる.

 筆者らはこれまで,阪神・淡路大震災などにおける高速道路網の被害について調査し2), 3), 4),被 災ネットワークのトポロジカルな評価指標3), 4) や,交通容量を評価指標としたネットワーク信頼性 解析手法5), 6) を提案した.これらはいずれもネットワークのflow-independentな特性に注目した性 能評価手法であるが,これに加えて,交通量,走行距離,所要時間などのflow-dependentな特性を考 慮したネットワーク機能評価を行うため,分割配分法を改良した新たな災害時交通量配分手法を開発 し,種々の評価指標によって震災時機能評価を行う方法を提案した7), 8).また筆者らの研究グルー プでは,断層の広がりや破壊方向などの震源特性を考慮することができる地震動予測モデルEMPR を 開発するとともに9),阪神・淡路大震災の被害データに基づいて,高架道路橋のフラジリティー関数 の評価に関する研究10)を進めてきた.

 以上の背景のもと,本研究では,既往研究の成果を総合化して,想定地震に基づいて被災道路網 の物理的・機能的性能評価を行うための終始一貫した手法を提案し,その適用例を示す.


2. 道路網の性能評価手法の概要
2.1 全体構成

本研究で提案する性能評価手法の全体構成をFig.1に示す.まず,対象地域周辺において考慮するべ き活断層を選定してシナリオ地震を設定する.次に,地震動予測モデルを用いて工学的基盤面におけ る地震動を推定し,表層地盤の増幅特性を考慮して堆積地盤上の地表面地震動を推定する.さらに道 路施設のフラジリティー評価から得られた被害確率マトリクスを用いて道路網のリンク被害確率を算 出し,モンテカルロ・シミュレーションにより道路網の被災パターンを生成する.すべての被災パタ ーンに対して修正分割配分法による交通量配分を行い,交通量,走行距離,走行時間などに関する様 々な評価尺度を用いて道路網の機能評価を行う.以下,順を追ってそれぞれの手順について説明を加 えながら,適宜,事例を示すこととする.


Fig.1 Flow chart of the performance evaluation method

2.2 要注意活断層の選定

 まず,シナリオ地震を設定するため,要注意活断層 地震を起こす危険性が高く注意の必要な活断層)を参考にすることとした.本研究では, 松田11) による「固有地震説に基づく選定法」と,金折ら12) による「活断層系における 地震の空白域を要注意とする選定法」という2種類の選定手法を補完的に用いた.Fig.2に示 すように,18の断層および断層帯が要注意活断層として選定され,それぞれについて,地震 モーメント,破壊伝播速度など地震動予測モデルに必要なパラメータを決定した.


Fig.2 Distribution of selected precaution faults

2.3 工学的基盤面における地震動強度の推定

 次に,工学的基盤(S波速度約500〜600m/s)での地震動の分布を推定するために,断層の広がり や破壊方向などの震源特性を考慮することができる地震動予測モデルEMPR9) を用いる.
 EMPRに よる地震動シミュレーションの一例として,Fig.3に,六甲淡路断層帯六甲区間(Fig.2中のNo.1 )を震源断層とした工学的基盤面における計測震度分布を示す.図中の実線は断層を表わし,西 端が破壊開始点である.シミュレーションに用いたパラメータは,断層長さ25km,地震モーメン ト2.05×1026 dyne・ cm(マグニチュード7.2程度),震源深さ10km,破壊伝播速度2.5km/s,地震動伝播速度3.0 km/s である.断層破壊の進行方向で地震動強度が大きくなる傾向が分かる.


Fig.3 JMA seismic intensity on baserock

2.4 堆積地盤上の地震動強度の推定

 地震動は局所的な地盤条件により大きく影響を受けるため,堆積地盤上の地震動を推定する 際には,その増幅特性を十分に考慮しなければならない.しかし,堆積地盤の詳細な情報を広 範囲にわたって得ることは非常に困難であるのが現状である.
 そこで本研究では,国土数値情 報を利用した地盤増幅率の推定法13) を用いた.これは,国土数値情報の地形・地質分類に基 づいて,堆積地盤における地震動強度の基準地盤に対する増幅率を簡便に係数化したものであ る.Fig.4Fig.3に示した工学的基盤面での計測震度を,堆積地盤上の計測震度に変換した分 布図である.地形・地質種別の違いから,沿岸部で特に強い地震動となることが分かる.


Fig.4 JMA seismic intensity on sedimentary layers

2.5 高架橋のフラジリティー評価

 地震による道路交通施設の物理的被害を推定するため,地震動強度と道路施設の損傷度の関係 を評価する必要がある.
 本研究では,阪神高速道路の高架橋を対象として,兵庫県南部地震の被災データを用いた統計 処理によってフラジリティー評価を行った.評価対象とした橋脚数は3225本であり,損傷度は, C,D(小・無被害,3027本),B(中被害,130本),A(大被害,41本),As(落橋,27本)の 各被災度に分類されている.地震動強度の推定には,兵庫県下については高田ら14) によるアン ケート震度調査結果を用い,大阪府下については鶴来ら15)によるアンケート震度調査結果を用 いた.その結果,Table 1に示す被害確率マトリクスを得た.本研究ではこのうち,被災度Aおよ びAsを,リンク不通をもたらす橋脚被害と仮定して,次段階のシミュレーションを行った.

Table 1 Damage probability matrix
IJMA As〜D As〜B As+A As
5弱 1.00 0.013 0.003 0.000
5強 1.00 0.037 0.007 0.000
6弱 1.00 0.082 0.019 0.000
6強 1.00 0.332 0.190 0.102

2.6 ネットワークモデルとリンク被害確率

 阪神地域における道路網をFig.5のようにモデル化した.OD交通量は,阪神高速道路公団に よる平成6年度センサスを参考にして推定した.このネットワークモデルをGIS(地理情報システム) 上でデータベース化し,Fig.4に示した堆積地盤上での計測震度分布とTable 1の被害確率マトリク スから,リンクを構成する橋脚ごとの被害確率を求め,これに基づいてリンク不通確率を算出した. Fig.6は六甲淡路断層帯六甲区間を震源断層とするシナリオ地震でのリンク被害確率と,断層位置を 示したものである.ネットワーク東部の高架区間のリンクが特に高い被害確率を示している.


Fig.5 Highway network model in Hanshin region


Fig.6 Probabilities of link failure due to the scenario earthquake


2.7 交通量配分手法と道路網のパフォーマンス評価指標

 リンク被害確率に基づき,モンテカルロ・シミュレーションによって1000種類の被災パターン を生成する.各被災パターンについて,修正分割配分法7), 8) を適用しOD交通量配分を行なう.
 これは,多数のリンク欠損のために通常の分割配分法が適用不可能となるような震災時を想定し て改良を施した交通量配分手法である.到達不能となったODペアを配分対象から随時除外しなが ら交通量配分を行うので,ODパターンが固定されないことが特徴である.
 各被災パターンの最終状態でのリンク配分交通量に基づいて,リンク指標,断面指標,OD指標,ネットワーク指標,な どの評価指標を算出して,被災道路網の機能評価を行う.被災に伴う「トリップの中止に伴う交 通量減少」,「迂回による走行距離増加」,「迂回と混雑による走行時間の増加」などの交通機 能特性の変化を考慮することができる.


3. 数値解析例と考察

 六甲淡路断層帯六甲区間(西端を破壊開始点とする)を震源断層としたパフォーマンス 評価の例を示す.阪神高速道路3号神戸線は高架構造であり,国道43号線もしくは2号線 上の空間を占有している区間が多い.高架橋被害による影響の波及効果を考察するため, 高架橋が被害を受けた場合の高架下リンクの通行条件として,(1)不通,(2)一部通行可能 (リンク容量0.5倍かつ所要時間2倍),(3)通行可能,の3タイプを考慮して,シミュレー ションを行った.

 Fig.7(a)(b)は,通行条件が(2)の場合における,トリップ充足率と延べ 走行距離および延べ走行時間(いずれも平常時に対する比に正規化)との関係を,全シミ ュレーション結果についてプロットした散布図である.結果は大きくばらついているもの の,ほとんどの試行でトリップ充足率の低下の度合いに対して,延べ走行距離および延べ 走行時間の低下の度合いは小さくなっている.重要幹線の被災によって,トリップの迂回 や集中が発生し,ネットワークが混雑した状態となることを示している.


Fig.7 Relationship between satisfied traffic volume, total trip length, and total travel time



 Fig.8は同じく通行条件(2)について,断面交通量の相関を示したものである. 須磨断面と比較すると,京橋断面では交通量のばらつきの範囲が小さく,平常時の60%程 度に集中している.


Fig.8 Correlation between cross-sectional traffic volume at Suma and Kyobashi sections




 Fig.9は平常時ODトリップ長とトリップ充足率の関係を示したものである.長いトリップほ どトリップ充足率が低くなる傾向が見出されるが,リダンダンシーなどのネットワーク特 性によって大きくばらつく傾向が理解できる.高架下の通行条件の影響はかなり明確に現れ ており,都市空間の立体的な利用が原因となって,機能障害が悪化する危険性を示唆してい る.


Fig.9 Relationship between average O-D trip length and satisfied traffic volume



 Fig.10(a) は,横軸にトリップ充足率の1000回のシミュレーション試行での平均値,縦軸に 延べ走行距離の平均値を示したものであり,Fig.10(b) は,縦軸を延べ走行時間の平均値と したものである.いずれの図においても,左下から右上へ,高架下の通行条件が(1)→(2)→ (3)と改善した場合を表している.瓦礫の撤去などによる高架下の復旧が,パフォーマンス評 価指標の改善に寄与する様子を見ることができる.延べ走行時間は1対1の線より上方に分布 しており,道路網の混雑による影響が大きいことが分かる.なお図中の破線は破壊開始点を 断層東端としたシミュレーションの結果であり,破壊開始点を断層西端とした場合よりも, パフォーマンス評価指標が低いことがわかる.


Fig.10 Improvement of satisfied traffic volume, total trip length, and total travel time

4. おわりに

本研究では想定地震に基づいた被災道路網の物理的・機能的性能評価手法を提案した.本稿で は紙面の都合上,適用例のごく一部のみを示したに過ぎないが,様々な想定地震に適用した結 果,被災道路網のパフォーマンスを多面的に評価しうることを確認している.本提案手法の細 部には,改善するべき点が多少残されているものの,「想定地震に基づく終始一貫した性能評 価手法のフレームワークの完成」という当初の目標については,ほぼ達成できたと考えている.

 事前に想定されたシナリオ地震によって引き起こされる交通状況の変化を,包括的に把握でき ることから,道路施設の耐震強化プランや緊急時の交通運用管理方策の検討への有効活用が期 待される.


謝辞:
道路施設のフラジリティー評価に関しては,阪神高速道路公団工務部および大阪管理部 の方々に貴重なデータをご提供いただき,京都大学防災研究所 亀田弘行教授・田中聡助手らと の共同研究の成果を一部利用した.記して謝意を表する.
参考文献
1) Werner, S., Taylor, C. E. and Moore II, J. E., "Loss Estimation Due to Seismic Risks to Highway Systems," 
   Earthquake Spectra, Vol.13, No.4, 1997, pp.585-604.

2) 能島暢呂・若林拓史・亀田弘行:震災下における交通機能障害の影響と交通管理運用策について,
   第1回都市直下地震災害総合シンポジウム論文集,1996.11,pp.289-290. 

3) 能島暢呂:高速道路網の地震災害による交通機能への影響評価,
   第2回都市直下地震災害総合シンポジウム論文集, 1997.11,pp.431-434.

4) Chang, S. E. and Nojima, N., "Measuring Lifeline System Performance: Highway Transportation Systems in Recent Earthquakes,"
   Proc. of the 6th U.S. National Conference on Earthquake Engineering, Seattle, USA, 1998, Paper No.70, 12p. (on CD-ROM) 

5) Nojima, N., "Performance-Based Prioritization for Upgrading Seismic Reliability of a Transportation Network," 
   Journal of Natural Disaster Science, Vol.20, No.2, 1999, pp.57-66. 

6) 能島暢呂・山中敏裕:道路ネットワークの地震時機能信頼性解析に基づく施設改善の重要度評価,
   第10回日本地震工学シンポジウム論文集,1998.11,pp.3205-3210. 

7) 能島暢呂:道路交通ネットワークの地震時機能評価モデルの開発,
   第3回都市直下地震防災総合シンポジウム論文集,1998.10,pp.513-516.

8) Nojima, N. and Sugito, M, "Simulation and Evaluation of Post-earthquake Functional Performance of Transportation Network,"
   Proc. of the 12th World Conference on Earthquake Engineering, Auckland, New Zealand, 2000. (in press)

9) Sugito, M., Furumoto, Y. and Sugiyama, T., "Strong Motion Prediction on Rock Surface by Superposed Evolutionary Power Spectra,"
   Proc. of the 12th World Conference on Earthquake Engineering, Auckland, New Zealand, 2000. (in press)

10) Tanaka, S., Kameda, H., Nojima, N. and Ohnishi, S., "Evaluation of Seismic Fragility for Highway Transportation Systems," 
   Proc. of the 12th World Conference on Earthquake Engineering, Auckland, New Zealand, 2000. (in press) 

11) 松田時彦:「要注意断層の選定」の再検討,
   活断層研究,14号,1996,pp.1-8.

12) 金折裕司・川上紳一:内陸被害地震の危険度評価と中部日本の活断層系への適用,
   応用地質,37巻3号,1996,pp.53-70.

13) 大西純一・山崎文雄・若松加寿江:気象庁地震記録に基づく地盤増幅度と地形分類との関係,
   第10回日本地震工学シンポジウム,1998.11,pp.909-914.

14) 神戸大学工学部建設学科土木系教室耐震工学研究室 兵庫県南部地震アンケート調査グループ(代表 高田至郎,嘉島嵩志)
   :兵庫県南部地震に関するアンケート調査 ―集計経過報告書―,1996.

15) 鶴来雅人・澤田純男・入倉孝次郎・土岐憲三:アンケート調査による兵庫県南部地震の大阪府域の震度分布,
   土木学会論文集,No.612/I-46,1999.1,pp.165-179.